CITY UP!でスタートアップ! 2018年度は23の事業を採択! なかでも要注目の3事業をご紹介。 〜後編〜 - CITY UP!

COLUMN

CITY UP!でスタートアップ! 2018年度は23の事業を採択! なかでも要注目の3事業をご紹介。 〜後編〜

2018年12月14日

「CITY UP!」というスローガンのもと、
未来へ向けた新しいプロジェクトを始動させているJR東日本。

これまで手がけてきた駅周辺サービスに磨きをかけるだけでなく、
これからは「くらしづくり(まちづくり)」にも挑戦していくそうです。
「住んで良かった」「働いて良かった」と思われるような沿線づくりや、
地域の顔である駅を中心とするまちづくりを地域と連携しながら進めています。

このコラムでは、その数あるプロジェクトの中から
とくに注目してほしい施設や取り組みを「CITY UP!」編集部が独自の視点でピックアップ!
今回は、2018年度「JR東日本スタートアッププログラム」の発表会を取材し、
23件の採択事業から編集部が注目する3つのプロジェクトをご紹介します。

2017年4月より、JR東日本が取り組んでいる「JR東日本スタートアッププログラム」(JR東日本グループの資源とベンチャー企業などが有するアイデアや技術を組み合わせて新サービスや新ビジネス創出を目的とするこのプログラム)。2018年度は「アクセラレーションコース」111件、「インキュベーションコース」71件の計182件の応募があり、採択された23件の事業者によるプレゼンテーションが、11月29日に東京の「LUMINE0」で開催されました。
モデレーターを務めたJR東日本スタートアップ株式会社マネージャーの阿久津智紀さんは壇上で、「アクセラレーションコースで採択された18件の事業すべて実証実験を行います。それがJR東日本スタートアッププログラムの最大の強みです」と強調しました。「もう一つの強みは、スピード感。4月に募集を行い、7月に採択事業を決定、11〜12月にもう実証実験を行います。大変ですけど……」と笑顔。そして、「そのスピード感の源は、ベンチャー企業や事業担当者の強い意気込みにあります」と会場前列で発表を控える事業者のプレゼンテーターに目を向けると、「準備はいいですか!」と熱く呼びかけ、23組のプレゼンテーションが繰り広げられました。

オープニングで「JR東日本スタートアッププログラム」の概要と強みを話す阿久津さん。
この後、各ベンチャー企業や事業者によるプレゼンテーションが繰り広げられました。

 

スタートアップ大賞はPicoCELA株式会社。
今まで困難だったエリアにも高品質なWi-Fi環境を!

 

編集部が注目する1つ目の事業は、スタートアップ大賞を受賞したPicoCELA株式会社の「無線マルチポップ技術による屋外無線LAN環境構築」。これまでLANケーブルが設置困難なために、Wi-Fiを利用できなかった広大な観光地やトンネル内でWi-Fiを使えるようにする技術を提案。同社の技術ではLANケーブルの配線量を大幅に削減できるため、広範囲に高品質なWi-Fi環境を構築することができるそうです。
例えば、スキー場。JR東日本グループが経営する新潟県のガーラ湯沢でもWi-Fi環境の整備は課題でしたが、広大すぎるためこれまで着手することができませんでした。そのガーラ湯沢で、同社による無線LAN環境構築の実証実験が進められ、12月15日のオープン日よりWi-Fi利用が可能になります。また、青森県の八甲田山ロープウェー山頂駅でも同様の実証実験が19年3月31日まで行われる予定です。
また、この技術を活用すれば、列車内にも高品質なWi-Fi環境が構築できるそうです。電波が途切れることのあった長いトンネル内でも安定したWi-Fi環境を提供できるため、今後は列車内でのパソコン仕事に支障を来すことがなくなるかもしれません。また、従来なら車両と車両をつなぐLANケーブルの配線に莫大な費用がかかっていたのですが、LANケーブルの配線が不要な同社の技術なら、そうした問題もクリアできます。
PicoCELA株式会社代表取締役社長の古川浩さんは、「20年近くこの技術の研究を続けてきました。2018年3月には教授として勤めていた九州大学も退職し、いっそう力を入れて打ち込んでいました。その矢先にスタートアップ大賞を受賞し、とてもうれしく思っています。事業が採択されてから実証実験に至るスピードの速さには正直、驚いています」と笑顔で話す。
通信環境の整備が重要な時代。スキー場だけでなく、トンネル内、列車内などさまざまな場所で高品質なWi-Fiが利用できれば、私たちの生活もますます便利に、豊かになります。早期の実現と幅広い展開に期待がふくらみます!

LANケーブルの配線量を大幅に削減し、高品質なWi-Fi環境を構築できる
PicoCELA株式会社独自の技術について語る古川さん。

 

AIを利用し、新幹線の混雑予測や駅ナカ店舗の需要を予測する
メトロエンジン株式会社のシステムがアクセラレーションコースの最優秀賞を受賞。

 

2つ目の注目事業は、アクセラレーションコースで最優秀賞を受賞したメトロエンジン株式会社の「AIを活用した駅や新幹線の流動予測」です。新幹線予約データや駅構内改札データ、列車別新幹線乗降者数などJR東日本グループが保有するデータや、外部公開されているビッグデータを独自のAI(人工知能)で分析することで、新幹線の混雑予測やイベント時などに駅を利用するお客さまの流れを予測するシステムです。
すでに東北新幹線やまびこ号の列車別、座席別、日別の需要予測を実験したところ、約250席の座席の需要予測の誤差は15席前後にとどめられたという結果も得られています。「閑散期はリーズナブルな割引切符などを発売することで、新たな需要の発掘も可能に。また、地方創生にもつながる取り組みになると期待しています」と、メトロエンジン株式会社代表取締役CEOの田中良介さんは自信を持ってプレゼンを行いました。
さらに、駅ナカのコンビニエンスストア「NewDays」や「BECK’S COFFEE SHOP」の売上予測も実施。それぞれ1日の売上予測の誤差は約6万円、約0.7万円にとどまりました。精度の高い売上予測を行うことで、店舗側のメリットとしては商品の発注量やスタッフの配置などの最適化を図ることができ、お客さまにとっては、よりスムーズで満足度の高いサービスが得られるようになるとのこと。新幹線や駅ナカ店舗に限らず、レンタカー、コインパーキング、ホテル、コインロッカー、鉄道、高速バスなどへの展開も可能です。
この事業の実証実験は2018年12月3日(月)から2019年2月28日(木)まで、STARTUP_STATION(〜12月9日まで)、東北新幹線、さいたま新都心駅で行っています。

壇上でプレゼンテーションをする田中さん。
同社のシステムはあらゆる場所に活用可能だと語る。

 

ITやAIを活用して、駅ナカでの飲食、旅やビジネスをもっと便利に!
株式会社Showcase Gigの「モバイルオーダー&ペイプラットフォーム」。

 

3件目の注目事業は、株式会社Showcase Gigが提案する「スマートフォンとキオスク端末を利用した無人オーダーカフェ」。惜しくも受賞は逃しましたが、前編で紹介したサインポスト社の「無人AIレジ店舗」と同様、スマートフォンやAIを活用した新しいシステムです。ITプラスAIという時代の流れを感じさせる、実現可能性の高い事業であるように思われます。
同社が提供しているシステム「O:der」は、モバイルオーダー&ペイプラットフォーム。これは、出社前や帰宅時などに、スマートフォンから駅ナカにある飲食店の事前注文と決済を行い、店内が混雑していてもレジに並ぶことなく、さっと商品を受け取れるという便利なシステムです。店頭にはセルフ注文端末も設置する予定で、Suicaによる決済もできるよう検討されています。店舗にとっても、注文やレジ対応スタッフのオペレーションの軽減化や省人化が可能になります。株式会社Showcase Gig代表取締役の新田剛史さんは、「お客さまと店舗の双方にメリットがある仕組みを、パートナーとして連携し、本格的な導入につなげられればと実証実験を行っています」とコメント。実証実験は2018年12月3日から、STARTUP_STATION(〜12月9日まで)、ほんのり屋、Becker’s、駅弁当売店などで行われています。

スマートな買い物体験を実現するShowcase Gigの「O:der」。
「アメリカなどの海外では、すでに浸透しているシステム」と新田さんは話す。

 

協業するベンチャー企業とは、「まるで家族のような関係に」。

 

今回ご紹介した3社だけでなく、アクセラレーションコースに採択された合計18社の企業が事業の実現を目指して、これから実証実験を実施していきます。これらの事業は「JR東日本スタートアッププログラム」が掲げる「暮らしを豊かにする新しい事業」になりうるプランですが、すべてのベンチャー企業との協業が事業化に至るとは限りません。事前に掲げた目標を達成できなかった場合や、事業化へのハードルが高すぎると判断された場合には、そこで協業はいったん終了することもあるそうです。
「残念ですが、それもビジネス」とモデレーターを務めた阿久津さんと、当プログラムを主導するJR東日本事業創造本部の石川恵理子さんは話します。「ただ、実証実験を重ねるうちに、一緒に取り組んでいるベンチャー企業とはまるで家族のような関係になります。励まし合ったり、喜び合ったりしながらも、言いたいことを言い合える。そんな深い関係のなかから、社会に求められる新たな事業を生み出したいと、日夜、努力を重ねています」。
ベンチャー企業と協業しながら、アントレプレナーを支援しながら進められている「JR東日本スタートアッププログラム」。未来へ向けたさまざまな事業の実現に大きな期待が寄せられています。

 

PROFILE

阿久津 智紀
JR東日本スタートアップ株式会社マネージャー。2004年、東日本旅客鉄道株式会社入社。17年、事業創造本部地域活性化部門でJR東日本スタートアッププログラムの立ち上げに携わり、18年、JR東日本スタートアップ株式会社を設立、出資業務とプログラム運営を担当する。

石川 恵理子
事業創造本部新事業・地域活性化部門事業開発グループ。2008年、東日本旅客鉄道株式会社入社。14年からJR東日本ステーションリテイリング(現:JR東日本リテールネット)本社営業部でインバウンド・新規施策の企画に携わり、17年からJR東日本スタートアッププログラム事務局の担当に。