青森りんごの魅力を全世界へ。『A-FACTORY AOMORI CIDRE』が本場・ヨーロッパに認められるまでの軌跡 - CITY UP!

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青森りんごの魅力を全世界へ。『A-FACTORY AOMORI CIDRE』が本場・ヨーロッパに認められるまでの軌跡

2019年8月19日

JR青森駅東口から徒歩1分。ウォーターフロント地区にある『A-FACTORY』は、シードル工房・フードマルシェ・レストランを兼ね備えた複合施設。地元のさまざまな食材を楽しむことができます。

施設内で醸造・販売され、シンボル的商品となっているのが、青森りんごを原材料に使用した発泡性果実酒『A-FACTORY AOMORI CIDRE(エーファクトリー アオモリシードル)』。今年6月、同シリーズ3商品が国際品評会『International Cider Challenge2019』にて入賞、うち2つが金賞という日本企業初の快挙を成し遂げました。

今回は、JR東日本青森商業開発でシードル全般の企画・開発・製造を担当する中嶋孝博さん、営業担当の平山仁資さんに、開発の背景や受賞までの道のりについて話を聞きました。

 

シードル醸造5年目にして権威ある品評会に初トライ。
落選で世界レベルを思い知る

JR東日本グループが行う地域活性の取り組み『地域再発見プロジェクト』。『A-FACTORY』はその一環として、東北新幹線「新青森駅」開業と同日の2010年12月4日に開業しました。シードル工房を併設したのは「地域との連携を強化し、地元と共に知恵を絞る“共創”を実現したい」という思いから。青森の名産品であるりんごの魅力を、従来の青果(生食)・りんごジュース・りんご菓子等とは違うかたちやシーンで発信することができ、かつ地域貢献できる新しい商品だと考えたのです。青森県全域を襲ったひょう害により、売り物にならなくなったりんごの活用がオープン前年の地域課題となっていたことも、青森の新しい名産品としてのシードルづくりを考えるきっかけとなったと言います。

開業以来、商品の醸造・開発を担う工房長の中嶋さんは、オープン当時の様子をこう話します。

「初代工房長は地元の六花酒造から出向した“日本酒造りのプロ”を迎えることができましたが、シードル造りは未経験。さらに、私を含む計3名のスタッフは醸造の経験もありませんでした。青森県産業技術センター弘前工業研究所で事前の研修を受け、実務に臨みました。現在の私たちの醸造技術は、地元の皆さんのお力添えによって身につけられたものなんです」(中嶋さん)

株式会社JR東日本青森商業開発 営業部
A-FACTORY店運営グループ 工房長 中嶋孝博(なかじまたかひろ)さん

 

シードルの製造期間は1カ月から1カ月半。りんごの選別・搾汁・発酵・ろ過・ガス圧調整・ビン詰め・熱処理などおよそ10の工程を経て完成します。A-FACTORYでは、原料受入れ以後の全工程を自社で行っています。中でも、特に気を配らなければならないのが、発酵期間中の緻密な温度管理や、ブレンドしているふじ・ジョナゴールド2種類のりんごの配合比率。どれも季節や醸造する商品によって条件が変動するため、その時々でベストな選択ができる知識と経験が必要となります。

工房内にある8つの醸造タンクでは、シードル・アップルソーダをはじめ多数の商品を製造。
その工程の一部をガラス越しに見ることができる。

 

「ほぼゼロに近い状態から始めたシードルづくりでしたが、5年目に突入したころには品質面、販売面での手応えが感じられるようになってきたんです。そこで自分たちの実力を確かめるべく出品したのがシードルの国際品評会『International Cider Challenge2016』でした」(中嶋さん)

『International Cider Challenge』は、世界各国から約150以上のアイテム(2019年は約280アイテム)が出品される国際品評会。シードル(英語圏ではCider:サイダー)の本場であるイギリスで毎年開催されています。淡い期待を抱きつつ待ち望んだ朗報でしたが、結果はまさかの「落選」。工房スタッフは、はじめて“世界レベルの高さ”を思い知ったのです。

 

りんごの選定、温度や発酵管理
――1つひとつの工程を徹底的に見直し、悲願の入賞へ

『A-FACTORY』が最初の品評会を、権威ある『International Cider Challenge』に選んだ理由はいくつかありました。

「2016年当時、シードルの品評会が国内になかったというのが理由の1つにあります。
でも、それよりなにより、私たちはスタート時から“本場ヨーロッパのシードルを真似るのではなく、すばらしい青森のりんごの魅力を生かした自分たちならではのシードル”を目指して、醸造に取り組んできたんです。ですから、自信もそれなりにありましたし、何らかの賞はいただけると踏んでいたのですが……」(中嶋さん)

「営業を担当している自分も、非常にショックを受けました。そんなに差があるものなのかと……。思い切り世界の壁にぶち当たったという感じでしたね」(平山さん)

株式会社JR東日本青森商業開発 成長事業戦略室 室長 平山仁資(ひらやまひとし)さん

 

一体何が問題だったのか……中嶋さんをはじめとする工房スタッフは1つひとつの製造工程を見直し、改善することにしました。

例えば、原料となるりんごの選定。りんごを絞る際、すべてのりんごの状態をひとつひとつ手作業で確認する中で、以前は多少のキズならその部分だけを切り捨てて使用していたところを、醸造に適さない状態であるものはすべて除外することに。温度や発酵管理については、発酵期間中の温度管理基準をより厳格化し、最良の状態で酵母が働く環境に近づけるなど、1つひとつの工程を見直して行きました。

工程を見直して再度挑んだ『International Cider Challenge2017』において、『A-FACTORY AOMORI CIDRE DRY』が銀賞を受賞しました。続く2018年は『A-FACTORY AOMORI CIDRE SWEET』をはじめとする3商品が銅賞に入賞。ひとつずつ積み上げた品質向上の努力がかたちに表れ始めました。

加えて、中嶋さんと平山さん達はシードルの本場であるイギリス・フランスに足を運び、工場やりんご農家を視察し、現地の数多くのシードルを試飲。現地メーカーから醸造技術の指導も受けました。そこで、平山さんはヨーロッパと自分たちのシードルづくりに大きな違いを感じたと話します。

「原料であるりんごへの考え方が、決定的に違うんです。ヨーロッパでは“シードルづくり専用のりんご”が数多く栽培されています。日本にはない味の特徴を持つ品種も多く、それらを何種類もブレンドして醸造し、出したい味を作り上げる”という考え方ですが、私たちは“日本の宝ともいうべき高品質な青森りんごの魅力に触れて、楽しんでいただくシードルを生み出す”ために醸造技術を磨いているんですよね」(平山さん)

ひとつずつ積み上げてきた品質向上の努力と、シードルの本場ヨーロッパで得た体験や知識、そして、地元青森の魅力をシードルという商品を通じて発信したいという作り手の思い。それらがつまった『A-FACTORY AOMORI CIDRE』。出品開始から4回目となる2019年に、ついに日本のシードルメーカーがまだ誰も受賞したことのない“金賞”が授与されたのです。

 

金賞受賞で何よりも嬉しかったのは
お客さまに商品を手に取っていただく機会が増えたこと

今年5月に開催された『International Cider Challenge2019』では、出品した『A-FACTORY AOMORI CIDRE STANDARD』『A-FACTORY AOMORI CIDRE DRY』が金賞に、『A-FACTORY AOMORI CIDRE SWEET』が銀賞を受賞するという快挙を成し遂げました。

本部から送られてきた表彰状と、受賞した『A-FACTORY AOMORI CIDRE 』シリーズ3商品。
左から DRY(金賞)、Standard(金賞)、Sweet(銀賞)

『A-FACTORY』フードマルシェ内でも特設コーナーを設け、大々的に販売

 

「メールで一報が入った時はもう、全員で万歳三唱しましたね。特に金賞は、日本企業では初の受賞だったので、非常に驚きました。そして徐々に“本場で認められた!私たちのやってきたことは間違っていなかったんだ!”という喜びがじわじわとこみ上げてきました」(中嶋さん)

このニュースは、地元メディアを中心に広く取り上げられ、これまでとはまた違ったユーザー層へと認知が広がりました。観光客がまださほど多くない時期にもかかわらず、『AOMORI CIDRE』をお買い上げのお客さまが目に見えて増えたといいます。加えて、飲食店や販売店からの問合せも増えるなど、オープン以来、最大の追い風となりました。

「味に対する感じ方は千差万別。自分たちが信じている商品の品質について、いくら『美味しいんです』『こだわりを持って作っているんです』と言っても、言葉で伝えるのには限界があります。この受賞によって『本場ヨーロッパが認めた味なんです』と加えられることは、営業する私にとっても非常にありがたいことですね」(平山さん)

お祝いの言葉は同業者からも届きました。リンゴ酒の文化醸成を目的として青森県各地域のシードル生産者等で設立・構成されている『あおもりリンゴ酒推進協議会』の仲間たちが、まるで自分のことのように喜んでくれたというのです。

「同志からの称賛も大きな励みとなりました。協議会では、私も一員となってイベントやセミナー開催など、地元のシードル文化浸透・醸成に尽くしてきたのですが、この金賞受賞が次のステージへの架け橋となるよう、今まで以上に力を注いでいきたいですね」(中嶋さん)

『A-FACTORY』のフードマルシェでは、青森県内の他メーカーのシードルも多数販売されています。自社の商品だけでなく、県内のさまざまなシードルを楽しみ、慣れ親しんでほしい。その思いは施設内の随所に表れています。

広々としたフードマルシェコーナー。シードルのほか、県内の魅力を集めた商品がずらりと並ぶ。

2階のイートインスペースでは、県内産のシードルが随時8種類楽しめる試飲販売機も。
事前に購入したカードを所定の位置に差し込むと、選んだ種類・量が注がれる仕組み。
カードは300円・600円・900円の3種類。25ml 100円から。(すべて税込)

 

今後は“りんご農家の顔が見えるシードルづくり”
そして“琥珀色のブランデー”に挑戦したい

来年12月でオープン10周年を迎える『A-FACTORY』。今後、工房長として挑戦したいことについて、中嶋さんは構想をこう語ります。

『A-FACTORY』の設計・デザインはすべて片山正通さんによるもの。
青森ベイブリッジとのコンビネーションが、ひときわ目を引く。

 

「いつか“農家の顔が見えるシードル”も醸造したいですね。「〇〇さんが作ったりんごで作りました」というようなコピーをつけて。
これまで多くの農家の方と接してきましたが、みなさん、自分の作ったりんごに誇りを持っていて、志も高い。りんごの栽培は非常に難しく、珍しい品種に挑戦するのは至難の業だと言われています。でも、その偉業に立ち向かう人もいる。そんな同志たちと共に、青森りんごを広めていきたいと心から思っています。

また、A-FACTORYでは本場フランスから取り寄せた蒸留機によりシードルを蒸留してアップルブランデーも製造しています。これからは、樽でしっかり熟成させたアップルブランデーを醸造したい。現在、販売しているのは、樽入れ前の珍しい透明なブランデーなんです。これはこれで珍しい商品ではあるんですが、樽の中で年月を重ねてじっくりと熟成した本格的なブランデーもラインナップに加えたいです。」(中嶋さん)

中嶋さんは、地元青森でしかできない仕事がしたいと『A-FACTORY』オープンとともにUターン。工房スタッフとなりました。約10年が経った現在では、国内外問わず、青森りんごやシードル文化をさまざまな形で発信するキーマンとして活躍しています。

関東出身の平山さんは、着任当初、入荷したての新鮮なりんごが積み上げられた冷蔵庫で、全身を包みこんだりんごの良い香りがずっと忘れられないと言います。

A-FACTORYシードル工房では、シードルを楽しむというシーンを通じて、青森の魅力に触れていただき、都市生活の中に地域の魅力が入り込むことや、青森を訪れるきっかけとなることを目指しています。

 

青森りんご、シードル、そして地域の活性化。
これまで、スタッフ1人ひとりの思いを形にしてきた『A-FACTORY』は、青森の魅力発信地として今後、さらなる躍進を続けることでしょう。

『A-FACTORY』でしか味わうことのできない生シードル(600円・税込)。
「熱処理を加えていないので、より香りや風味が味わえる特別な1杯です。
ぜひ施設に遊びに来てください」と中嶋さん。