酒米づくりから出発進行!地域の思いを乗せて走る『新潟しゅぽっぽ』開発ストーリー【JR東日本新潟支社「地域連携×日本酒」シリーズ①】 - CITY UP!

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酒米づくりから出発進行!地域の思いを乗せて走る『新潟しゅぽっぽ』開発ストーリー【JR東日本新潟支社「地域連携×日本酒」シリーズ①】

2019年10月7日

旅と食と地域をつなぐ日本酒『新潟しゅぽっぽ』。JR東日本新潟支社が取り組む『地域連携プロジェクト』によって生み出された渾身の商品です。JR新潟ファームで生産された酒米「五百万石」を使い、精米歩合・アルコール度数を同じくした日本酒を、県内にある今代司酒造・越後鶴亀・吉乃川・君の井酒造が醸造。酒蔵ごとの個性が味わえる4銘柄を販売しています。今年7月に発表された『みんなが贈りたい。JR東日本おみやげグランプリ2019』では地酒部門賞の銀賞に選ばれました。

今回はJR東日本新潟支社で『地域連携プロジェクト』の推進役を担う丸山貴臣さん、『新潟しゅぽっぽ』を製造する酒蔵のひとつ・今代司酒造社長の田中洋介さんに、商品開発の背景や地域活性化の取り組みについて話を聞きました。

 

日本酒の“6次産業化”を目指し、JR新潟ファームを設立
酒米「五百万石」生産へ

JR新潟ファームは新潟市の国家戦略特別区域指定による規制緩和を活用し、JR東日本によって設立された特例農業法人。『新潟しゅぽっぽ』の原材料となる酒米「五百万石」を栽培しています。農家・酒蔵・事業者が一体となって新潟の魅力を発信する『地域連携プロジェクト』は、2016年、この会社の起業とともにスタートしました。
JR東日本新潟支社でプロジェクトに携わる丸山さんは、立ち上げの背景についてこう語ります。

東日本旅客鉄道株式会社 新潟支社 営業部事業課 丸山貴臣(まるやまたかおみ)さん

 

「新潟は日本屈指の米どころであり、酒どころでもあります。この地の利を最大限に生かし、地域を活性化できる“6次産業”に取り組めないか――そんな思いから酒米づくりを専業としたJR新潟ファームを設立し、同時に『地域連携プロジェクト』も発足。地域の方々と共創した日本酒を通じて、新潟の魅力を発信し、国内外の交流人口の増加を目指すこととなりました」(丸山さん)

生産する酒米を五百万石と決めたのは、新潟由来の品種であり、気候風土にも適しているから。そして、新潟県内の酒蔵の多くがこの五百万石を原材料としていたからです。

「県内の酒蔵とのコラボレーションを前提としていたこの商品開発で、あらかじめ決定していたことは3つ。『同じお米』、つまりJR新潟ファームで作られた五百万石を使うこと。そして『同じ精米歩合』『同じアルコール度数』で醸造することです。精米歩合とは、お酒を仕込む際に精米して残す米の割合をパーセンテージで表したもので、その割合が少ないほど香り高い淡麗な酒質となります。『新潟しゅぽっぽ』の精米歩合には、新潟全蔵の平均値である58%が用いられました。これは新潟清酒が誇る、全国トップレベルの数値なんです」(丸山さん)

新潟清酒“らしさ”を全面に打ち出したコンセプトに共鳴し、いち早く共同開発に乗り出したのは、今代司酒造、越後鶴亀。2016年に収穫された酒米を使用した商品はその年の12月に発売されました。翌年には、新たに吉乃川、君の井酒造の2酒蔵も加わり、現在では4銘柄の『新潟しゅぽっぽ』を展開しています。

『新潟しゅぽっぽ』は新潟県内の駅ナカ各販売店などで展開。
新潟駅構内にある『ぽんしゅ館』でも大々的に販売されている。

 

目指すは地域の共創 フラットなチームから生み出された“新潟らしい商品”

同じお米・精米歩合・アルコール度数の純米吟醸酒でありながら、酒蔵ごとの味わいを楽しめる――これが『新潟しゅぽっぽ』の最大の特徴です。今代司酒造のしゅぽっぽは、冷酒でも常温でもぬる燗でも楽しめ、料理のジャンルは問いません。越後鶴亀のしゅぽっぽは、少し冷やして魚介やきのこを使ったバター焼きと共に。吉乃川のしゅぽっぽは、同じく少し冷やして脂ののった刺身やつくねと一緒に。君の井酒造のしゅぽっぽは、煮込み料理や肉料理との相性が抜群……といった具合に、合う料理もさまざま。

酒蔵ごとの特色を表しているのは、味だけではありません。ラベルには、夕日や水田、花火、雪とともに“酒蔵のある風景”が描かれ、見る人に酒造りへの想像をかき立てます。商品デザインを担当したのは、地元を知り尽くす新潟出身・在住のデザイナーでした。

左から君の井、吉乃川、越後鶴亀、今代司酒造の『新潟しゅぽっぽ』。
切符をモチーフにしたデザインがコンセプトである“旅”を連想させる。

 

「『地域連携プロジェクト』には、農家、酒蔵、販売店のほかに日本酒コミュニティ『にいがた美醸』主宰者の方や、地元で活躍するデザイナーなど多様な分野のプロフェッショナルに加わってもらいました。メンバー全員の通点は新潟在住であることのみ。『新潟しゅぽっぽ』というネーミングも、ラベルも、陳列方法もすべてみなさんのアイデアを基に“共創”してきたものです。

私たちJR東日本新潟支社がプロジェクトの旗振り役にはなっていますが、みなさんに『こうしてほしい』とお願いしたことは一度もありません。『新潟しゅぽっぽ』の酒造りに関しては、酒米や精米歩合の指定はさせてもらったものの、それ以外は各酒蔵の杜氏さんにすべてを委ねました。だからこそ、のびのびとした個性ある商品が生まれたのだと実感しています」(丸山さん)

プロジェクトのメンバーが集結し、毎年10月~11月頃に実施しているのが、お酒の仕込み。蒸した酒米をタンクに入れる作業を共同で行ない、みんなで完成を待つ――スタートから4年目を迎えた今では、連帯感をより高める上で欠かせない恒例行事となっています。

 

“日本酒と鉄道の相性”に興味が湧いた?!老舗・今代司酒造が『新潟しゅぽっぽ』の開発に乗りだした理由

『新潟しゅぽっぽ』を生産・販売する酒造メーカーのひとつが今代司酒造。1767年創業の老舗でありながら、「今の時代を司る」という名前の通り “今の時代に合った酒の楽しみ方を創造する”新たな挑戦を続けています。
今代司酒造社長の田中洋介さんは、JR東日本新潟支社とコラボレーションした理由についてこう語ります。

今代司酒造株式会社 代表取締役社長 田中洋介(たなかようすけ)さん

 

「実は鉄分は日本酒とすごく相性が悪いんです。『日本酒づくりの中で鉄分は一切入り込んで欲しくない』というくらいに。でも鉄道とお酒は非常に相性がいい(笑)。このギャップが面白いなと思ったのが、このコラボレーションに興味を持ったきっかけですね。JR新潟ファームという特定の企業から酒米を購入できるのも『契約栽培を増やしていく』ことを望んでいた我々にとってはメリットに感じられました」(田中さん)

これまでも横浜DeNAベイスターズや蔦屋書店など他業種とタッグを組み、商品の幅を広げてきた今代司酒造。一番の狙いは「これまで接触する機会が少なかったお客様にも、あらためて日本酒の良さを知っていただく」ことだと田中さんは言います。

今代司酒造の酒蔵内にある展示スペース。どの商品にもスタイリッシュなラベルデザインが施されている。

 

「地域での取り組みも、ユニークな商品開発も、すべては『日本酒の新しいマーケットを作るため・広げるため』に行なっています。限られた世界の中で他の酒造メーカーとシェアを奪い合うというよりも、日本酒市場をもっと盛り上げていきたいんです。これには『多くの人にお酒を飲んでいただくことで、原料となるお米の需要が伸び、ひいては美しい日本の田園風景が守られる』というような多角的な要素も含まれます。
そうした意味においても、複数の酒蔵が連携して行なった『新潟しゅぽっぽ』の商品開発は、私たちの目指す方向性と合致していました」(田中さん)

このコラボレーションをきっかけに、他の3つの酒蔵とより親しくなれたと話す田中さん。『地域連携プロジェクト』は、酒蔵同士の連携をも深めたようです。

JR新潟駅から徒歩15分という好立地にある今代司酒造。
酒蔵見学も受け入れており、毎日多くの観光客が訪れる。

 

県外に出てみて分かった新潟ならではの良さ
地元の人にももっと「しゅぽっぽ」してほしい

新潟の「しゅ(酒)」をきっかけに、「ぽっぽ(街歩き)」をしてもらいたいという願いを込めてつけられた『新潟しゅぽっぽ』。商品に絡めた地域イベントも積極的に行なっています。そのひとつがJR新潟ファームによるイベントです。
『地域連携プロジェクト』が発足当初から掲げていた目標は「新潟発の日本酒ツーリズムを創出し、地域の魅力を多角的に発信していくこと」。JR新潟ファームでは、初年度より田植えや稲刈り体験イベントなどを実施し、ツーリズム化の基盤づくりに注力してきました。

稲刈り体験イベントの様子。毎年親子連れの参加者で賑わう。

 

「初年度は関係者のみで行ないましたが、2年目からは新潟市アグリパークという地元の公立教育ファームを通じて参加者を募るようになり、子どもから大人まで幅広い年齢層の方にお越しいただけるイベントになりました。
2017年には台湾からの観光客を20人ほど誘致して稲刈り体験や酒蔵見学、市内観光ツアーを実施しました。アテンドしながら『外国人にも楽しんでいただける』確かな手応えを感じることができましたね」(丸山さん)

イベントの実施がきっかけで、新たに生み出された商品もありました。2018年に発売された『新潟しゅぽっぽ・あまざけ』。「大人だけでなく、子どもも五百万石が味わえる商品を」という参加者の声がきっかけとなり、開発されました。

今代司酒造が製造している『新潟しゅぽっぽ・あまざけ』は、砂糖不使用のすっきりした甘さの麹甘酒。

 

「せっかく田園地帯まで来てもらって、自ら苗を植えたり、稲を刈ったりしても、その酒米で作った商品は、未成年の方に味わってもらうことができない。それがずっとネックに思っていたので、イベント参加者全員で商品を試飲できた時は本当に嬉しかったです」(丸山さん)

丸山さんは生まれも育ちも新潟。高校卒業後、JR東日本新潟支社に入社し、駅員や車掌を務めました。転機が訪れたのは2011年。社内制度を利用して、会社に在籍しながら東京の大学へ進学したのです。

「初めて県外に出てみて、あらためて故郷の良さを知ることができました。日本酒の名産地だけあって、水も良質ですし、食事も美味しい。美しい風景もある。大学卒業後は、素晴らしい新潟の魅力をもっと内外に知らしめていきたいと思い、地域活性化に携わる職務を志願したんです」(丸山さん)

『地域連携プロジェクト』に関わるようになって3年半。丸山さんが今、課題に感じているのは「地元の人自身が新潟の良さに気づいていない」こと。しかし、かつての自分がそうだったように、ひとたびその魅力に気づけば、多くの人に伝えたくなる。地元にそうした“発信者”を増やしていけば、自然と新潟の良さがじわじわと広がっていくのではないか――そんな思いを胸に、丸山さんは今日も『新潟しゅぽっぽ』と共に新潟県内を駆け巡っています。