COLUMN

フードダイバーシティの実現を目指す。新しいカタチの東京みやげ「Plant Based(プラントベース)」シリーズ誕生秘話

2020年3月16日

国籍や食へのポリシーを問わず、できるだけ多くの人に日本の食を楽しんでほしい。大切な人とそのおいしさを分かち合ってほしい――そんな思いを込めてJR東日本グループの3社(JR東日本東京支社、JR東日本商事およびJR東日本リテールネット)が立ち上げた新ブランド「Plant Based(プラントベース)」。植物性由来の原材料のみを使用して作る、ヴィーガン・ムスリムフレンドリーなおみやげシリーズです。2020年2月25日(火)、第1弾となるお菓子シリーズ(3メーカー8アイテム)が発売。構想から約2年を経て、悲願のデビューを果たしました。
今回は、JR東日本、JR東日本商事の担当メンバー3名に、企画した背景や開発での苦労、商品に込めた思いについて話を聞きました。

 

JR東京駅での“生の声”が企画化のきっかけに

日本の主要玄関口の1つ・JR東京駅。構内で年々増加しているのが、インバウンド対応です。「Plant Based」は、駅に寄せられた外国人客の“生の声”がフックとなり、企画されました。

JR東日本東京支社の長井あやかさんは、詳しい背景についてこう語ります。

「近年、訪日外国人数は増加傾向にありますが、それに比例して、食のポリシーを持つ旅行者の数も年々増えていると言われています。実際、JR東京駅構内にある『T’sたんたん』では『肉や魚介類、卵、乳製品を一切使わない担々麺』を求め、毎日多くの外国人客が訪れており、その数は来店客の約半数を占めるほど。構内4か所に設置されたインフォメーションセンターでは『T’sたんたん』に関する問い合わせのほか、『ムスリムやヴィーガンの人でも安心して利用できる飲食店や商品』について聞かれることも多く、ニーズの高まりをひしひしと感じていました。

『日本の豊かな食文化をもっと多くの人に楽しんでいただきたい』。そんな思いが発端となり、ヴィーガン・ムスリムフレンドリーな“新しい東京みやげ”の商品開発に乗り出したんです」(長井さん)

東日本旅客鉄道株式会社 東京支社 事業部 企画・地域共創課 長井あやか(ながい・あやか)さん

 

2018年4月、JR東日本・JR東日本商事が中心となって「Plant Based」プロジェクトが始動。同じ頃、現在の担当メンバー・JR東日本東京支社の岡﨑恭子さんは、JR新宿駅に勤務。みどりの窓口での発券業務や駅構内でのインバウンド施策にあたっていました。

「私の担当業務は、窓口で外国人対応を行いながら、そこで培ったインバウンド視点を駅構内に生かすこと。例えば、案内板や掲示板の表記を改良してより分かりやすくするというような取り組みですね。その中でどうしても改善できないことがありました。それは、『ハラル食を提供する飲食店の設置』。よくインドネシアやマレーシアから訪日されたお客様の発券業務を行うことが多かったんですが、そのたびに聞かれて。しかし、新宿駅には対応できるお店がなく、いつも心苦しく思っていました。
ですから、翌年の2019年に事業部へ異動し、ムスリムやヴィーガン向けの商品である『Plant Based』の開発担当になれたのは、本当に嬉しかったですね」(岡﨑さん)

東日本旅客鉄道株式会社 東京支社 事業部 企画・地域共創課 岡﨑恭子(おかざき・きょうこ)さん

 

「Plant Based」であれば、さまざまな食の考え方を幅広くフォローできる

場所や時間に縛られることなく、大切な人と共に楽しめるアイテム、お菓子。日本のお菓子作りの技術は、世界でも高く評価されています。プロジェクトは「ハラル認証付きのお菓子」の開発を目指し、スタートを切りました。しかし、調査を進めていくにつれ、ハラル認証を取得することはかなりの難関であることが分かります。JR東日本商事の内藤大嵩さんは、当時の調査の状況についてこう話します。

「ハラル認証を取得するには、素材や製造ラインだけでなく、物流の面においても他の食品との区分が求められることが分かったんです。おみやげという商品特性上、この基準を満たすのはなかなか難しい。しかし、実際にムスリムの方にヒアリングをしたところ、『ベジタリアンやヴィーガン向けであれば、豚を使用されていないことが分かるので、それにアルコールフリーが加われば安心して購入できる』と言われまして」(内藤さん)

株式会社ジェイアール東日本商事 営業本部 のもの事業部 のもの商品グループ 兼 営業部
内藤大嵩(ないとう・ひろたか)さん

 

方向性をヴィーガンに変え、さらなる調査を進めたメンバーたち。すると、また新たな壁が立ちはだかりました。ヴィーガンという言葉には様々な意味や捉え方があることが次第に明らかになってきたのです。

「外国人約600名を対象にアンケートを実施し、それとは別に食にポリシーを持つ外国人への個別ヒアリングも20名ほど行いました。どちらも『安心して購入できる商品ライン』の話を中心に伺いましたが、聞けば聞くほど食への考え方が細分化されていることが分かって。中には、成分や製造工程だけでなく、原料の栽培環境や出荷方法について言及する人もいました」(長井さん)

できるだけ多くの人に、新しい東京みやげを楽しんでほしい。でも“すべての人”が安心して口にできるような厳しいレギュレーションにすると、商品としての可能性を狭めてしまう。
――悩みに悩んだメンバーは、試行錯誤しながら基準をつくっていくことを決めます。

「Plant Basedは、“植物由来の”という意味。植物の原料のみで作ることを忠実に守る。その決意をブランド名にし、前面に打ち出していくことにしました」(内藤さん)

「Plant Based」の基準を示すピクトグラム。
①動物性食材(乳製品、卵含む)、②動物性の骨等で精製した砂糖、
③はちみつ、④アルコールは使用していないことを示している。

 

「Plant Based」を軸に、商品レギュレーションを決めたメンバーは、お菓子メーカーへの提携交渉を開始。その時、すでにプロジェクト始動から1年以上の年月が経過していました。

 

ヴィーガン向け“なのに”ではだめ。「こみ上げてくるおいしさ」をとことん追求

食にポリシーのある人にも安心して味わえる“日本のおいしいお菓子”を届けたい――そうした「Plant Based」の趣旨に賛同し、提携した協力企業は3社。「東京カンパネラ」で有名なアイル社、「東京ばな奈」でお馴染みのグレープストーン社、そして「馬車道馬蹄パイ」が人気のガトー・ド・ボワイヤージュ社です。

「各メーカーとも数多くのヒット商品を生み出している実力派。バターや牛乳、卵を一切使用しないお菓子作り、特に製造ラインに乗せて作ることはかなり困難だとされているのですが、意識高く取り組んでいただきました」(内藤さん)

試作品は、関係者のみならず、食へのポリシーを持つ20名の外国人にも試食をしてもらい、さまざまな角度から意見を吸い上げるようにしました。最も苦労したのは、当初から懸念していた「おいしさ」への追求でした。

「目指していたのは『商品特性を知らずに口にした人にも、おいしいと思ってもらえるレベル』。ヴィーガン向け“なのに”おいしいでは、到底多くの人には受け入れてもらえません。ですから『味に新鮮さや驚きがない』というような意見が出ても、それを真摯に受け止め、各メーカーと連携し、できる限りの手を尽くしました」(長井さん)

試作・試食・フィードバックを何度も繰り返しながら、開発に費やした期間はおよそ半年。第1弾「Plant Based」は、各メーカーの世界観が余すところなく表現された全8アイテムのお菓子シリーズとなりました。

「パッケージデザインに関しては、ロゴやピクトグラムをわかりやすく表示することに注力し、該当するお客様にしっかり伝わるよう努めました」(内藤さん)

アイル「東京カンパネラ ブラウン」。植物のやさしさから生まれた、新しい「東京カンパネラ」。
8個入り 1,200円(税込)、16個入り 2,400円(税込)

 

ガトー・ド・ボワイヤージュでは「Plant Based」シリーズとして全6商品を展開。
左下「Las Olas シリーズ Boule de Rouge」は12個入り 1,296円(税込)。

 

グレープストーン『東京ばな奈「見ぃつけたっ」アーモンドキャラメルサンド』は
2020年3月15日から販売開始。4個入り 680円(税込)、8個入り 1,296円(税込)

 

第2弾、第3弾の発売を目指す「Plant Based」シリーズ。今回新たに制作されたのが、JR東日本グループが「一定の基準を満たしたと判断した商品」にのみつけられる、ロゴマークです。

「2つの葉で包み込むデザインにしたのは、多様な生き方や考え方を受け入れる『やさしさ』を表現したかったから。この葉を『上に入れるか、下から包み込みか』、『もっと大きくするか』など非常に多くの議論を重ねました。“JAPAN QUALITY”と入れたのは、日本の高品質な商品を味わってほしい、シェアしてほしいという願いが込められています。
このロゴには、私たちチームの思いがぎゅっと詰まっているんです」(岡﨑さん)

 

日本のおいしさを分かち合ってもらうために“届ける”努力は惜しまない

「幅広いネットワークや一定の影響力を持つJR東日本グループが、こうした新しいマークを作り、該当する商品に表示する。こうした活動の目的の1つには『食に対して同じ思いを持つ団体・個人と共に連携していきたい』という私たちの意志も含まれています。このマークが契機となり、フードダイバーシティの機運を高めることができたら嬉しいですね」(内藤さん)

内藤さんは、2016年より東日本の地産品ショップ「のもの」事業部に在籍。ショップオリジナル商品「おやつTIMES」で培ったチーム・マーチャンダイジングのノウハウや視点が、この「Plant Based」開発でも活かされました。

「私たちJR東日本商事は、それまで商品開発はメーカーとの1対1での取引の中で行なってきました。『おやつTIMES』ではその体制を一新させ、デザイン、出版、小売業を営む各社と共同で開発に取り組んだんです。そこで“チームだからこそ生まれるシナジー”を体感しながら、グループ独自のスキームを確立することができました。今回は、その視点を活かしながら販路の拡大も実現したいと考えています」(内藤さん)

2020年3月現在、JR東京駅構内を中心に販売中の「Plant Based」お菓子シリーズ。今後は各メーカーの直営店舗やJRが運営する海外店舗など、既存の枠にとらわれない場所での展開を目指したい、と話す内藤さん。一方、長井さんは、旅行者の視点から販路拡大を望んでいました。

JR東京駅新幹線南のりかえ口前の臨時販売スペース(2020年5月中旬まで)。
その他、のもの東京店でも販売されている。

 

「海外旅行をしたら、おみやげ用に作られた商品よりも、その国の人が心の底からおいしいと感じている逸品を購入したい。きっと多くの人がそう思うのではないでしょうか。
今回のプロジェクトでは、幸運にも東京を代表する人気メーカーとタッグを組むことができました。ですから『東京カンパネラ』や『東京ばな奈』、『馬車道馬蹄パイ』のファンやその名に聞き馴染みのあるお客様に、新商品の1つとして『Plant Based』に興味を持ってもらい、味わっていただくのが理想的だと思っています」(長井さん)

食にポリシーのある人も、そうでない人も。外国人も、日本人も。新しい東京みやげとして手に取っていただき、みんなでそのおいしさを分かち合っていただきたい。

すでに第2弾の開発に着手しているという「Plant Based」チーム。彼らの挑戦はまだまだ続きます。